税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 
ここまでみてきたように、相続の問題に絡んだ数々の課題や困難に直面している都市農家ですが、その存在意義は決して失われてはいません。

 それどころか、食品流通の国際化による輸入農作物の増大や遺伝子組み換え食品に対する懸念などを背景に、「食の安全」への関心が高まっている中で、現在、都市農家の社会的役割は大きく注目されているところです。

 首都圏等の大規模な消費地のすぐ近くで農業の営みを行う都市農家は、精算の場と作り手の顔が見えやすい存在です。すなわち、どんな人がどのような思いで作物を作っているのかを、個々の消費者が実感することが十分に可能です(生産者の顔写真や名前が示された”地産地消”コーナーが設けられているスーパーは今や珍しくありません)。

 そのような確かな実感は、誰がどのように作っているのか全くわからない輸入農作物がもたらす不安とは逆に、「新鮮で安全な農作物を作ってくれている」という安心感と結びつくものといえるでしょう。

 このような、いわば「新鮮で安全な農作物を供給し、消費者の食への不安を解消する役割」を果たすことが都市農家には期待されています。

 また、その他にも、都市農家は、現代社会において以下のような多様な機能を果たしていると評価されています。

 ・心安らぐ緑地空間の提供
 ・農業体験・交流活動の場の提供
 ・都市住民の農業への理解の醸成
 ・災害時の防災空間の提供
 ・国土・環境の保全

 このような公共的機能を担った都市農家が、不幸にも相続対策に失敗して土地を、そして「家」を失い、その結果、消滅してしまうようなことがあれば社会にとっても非常に大きな損失であることは明らかです。

 そうした意味では、本章であげた都市農家の直面している問題の解決は、国民一人ひとりにとっても無視することができない重要なテーマといえるかもしれません。

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