柔軟な対応ができる「家族信託」

税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 まだ一般化しているとはいえませんが、今後、ぜひ、活用を検討してほしい新しい相続対策として「家族信託」があります。

 この「家族信託」を使った相続対策は、結果として遺言書と同等の効果をもたらすといわれていますが、さらに、それにプラスした効果を期待できます。

 まずは、信託そのものの基本的な仕組みから説明しておきましょう。

 信託は、契約等に基づいて、特定の者が、一定の目的にしたがって、財産を有する者から所有権を移転された財産の管理・処分等の必要な行為を長期的に行うことです。

 このような信託の対象となる財産を信託財産、信託財産の所有権を移転した者を委託者、信託財産の移転を受けた者を受託者、信託の仕組みによって利益を受ける者を受益者といいます(図表3−4参照)。

図表3-4

「家族信託」とは、このような信託のスキームを家族間の財産管理や相続等に用いるものです。

 具体的な活用例としては、まず、被相続人が認知症等になった場合に相続対策をスムーズに行うため、被相続人の不動産等を信託する利用法が考えられます。

 たとえば、父親が、事故の収益不動産を長男に信託します。その結果、父親は委託者であると同時に、賃料を受け取る受益者となります。一方、長男は受託者となるわけです。

 このような仕組みを作っておけば、仮に父親が認知症となり成年後見を申し立てられたとしても、長男がすでに不動産の管理処分権を持っているので、不動産の有効活用等を図れなくなるおそれはありません。

二次相続を想定して活用してもよい

 また、「家族信託」は、二次相続を想定した相続対策としても非常に有効な選択肢となります。

 被相続人が相続の方法を具体的に指定する手段としては、前述の遺言書があります。

 しかし、遺言書で指定できるのは、遺言者である被相続人が亡くなった時の相続、すなわち一次相続の方法についてのみです。したがって、相続人の死亡時の相続である二次相続については遺言で指定できません。

 たとえば、一次相続の被相続人Aが、自分の財産をBには相続させたいが、Bの相続人、すなわち二次相続の相続人であるCには相続させたくないとしても、遺言書でそのようなAの願いをかなえることは非常に困難です。

 しかし、「家族信託」を利用すれば、Aは、自身が死亡した後、Bを自分の財産の受益者とするが、Bが死亡した後はCではなく、Dを受益者とするような仕組みを作ることが可能です(連続信託)。

 それによって「Cには相続させたくない」というAの願いを実現することができるわけです。

 このように遺言書よりも自由度が高い形で、個々の被相続人あるいは相続人の意向に応じた相続の仕組みを柔軟に作れるのが「家族信託」の最も大きなメリットといえます。

 基本的には、信託契約を結んで、登記をするだけというように手続きも簡単です。その気になれば、数日ですべての手続きを終えることができます。

 家族信託については様々な利用方法が考えられます。ぜひ、積極的な活用を検討してみてください。

図表3-5