税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 「タワーマンション」「節税」というキーワードで、ネットを検索すると、不動産業をはじめとするホームページが数多く出てきます。これは、富裕層のための相続税対策の節税商品として、数年前より注目されてきたものです。

 そのスキームは、タワーマンションの購入価格(購入時の時価)と相続税評価額のギャップを利用したものです。具体的には、1億円の預金があるとします。そのまま相続を迎えれば、相続税の計算に算入される預金の金額は、当然1億円となります。この1億円を使って、自宅を新築した場合、その建物の相続税評価額は、ざっと6千万円程度となります。これは、建物の相続税評価額には、固定資産税の評価額を用いるためで、たとえ1億円で新築したとしても、その評価は、建築資金の6~7割となります。

 タワーマンションは、そのギャップを最大限に利用したものです。タワーマンションとは、20階建て以上で、一般的には高さ60m以上のもの、または環境アセスメント条例が適用される100m以上のものをいいます。最近は、1棟が900戸以上もある物件すらあります。ここまでの高層マンションともなると、1戸に対する土地の面積は限りなく小さく、販売価格の多くを建物の価額が占めることとなります。このギャップを利用すると、都心のタワーマンションを1億円で購入したとしても、その相続税評価額は、約3,000万円程度となります。

 さて、この節税スキームの否認事例を紹介します。平成23年7月1日裁決ですが、約3億円でタワーマンションを購入し、所有権移転登記が完了した翌月にその購入者である父が死亡しました。父の相続税の申告では、そのタワーマンションを約6千万円で評価し、申告書を提出しました。さらには、このタワーマンションを、相続税の申告後、直ちにほぼ購入価格と同額で売却しました。これについて国税は、相続税評価額の約6千万円ではなく、タワーマンションの購入価格である約3億円で申告すべきと処分を行いました。
 
 財産評価基本通達第6項には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という伝家の宝刀ともいえる定めがあります。この節税が成功していれば、購入価格と相続税評価額との差額、約2億4千万円が圧縮できたはずでしたが、父の相続開始前後の短期間に、父の財産を一時的にタワーマンションとして所有していただけと判断されたわけです。

 もちろんタワーマンションの購入のすべてが、こうした判断を受けてしまうということはありませんが、タワーマンションを使っての過度な節税が横行すると、この評価額のギャップに規制が掛かるかも知れません。