
「格差是正と富の再配分」を錦の御旗に掲げて、財務省はこれまで一貫して、相続税の課税強化を訴え続けてきました。
そのような財務省のスタンスは、政権が変わろうが変わるまいが、全くぶれることなく一貫しています。すでに触れたように、税制改正によって、平成27年からは、相続税の基礎控除額が下げられ、最高税率が上がることが決まりました。まさに財務省の思惑通りの展開です。
このような相続税強化の流れは、平成27年以降も間違いなく続くでしょう。先頃、2014年4月から、消費税が8%に引き上げられることが正式に決まりましたが、このパーセンテージの不満をなだめるためには、「富裕層も、相続税でこれだけ国にお金を納めているのですから我慢してください」という”バーター”が必要になるからです。
相続税の負担がより一層重くなることが予想される中で、大切な家を、土地を、子々孫々伝えていくためには、今後ますます、相続対策に気を配らなければならなくなります。繰り返しになりますが、この点については、あらためて強調しておきたいと思います。
すでにご一読いただいたように、本書では、そのために役立つと思われる手段を数多く解説してきました。
その中でも、とりわけお勧めしておきたいのは、やはり「法人化」と「遺言書」の2つです。
まず、「法人化」については、土地持ちの家であれば、この手法により大きく節税することが可能です。日本の法人税は世界的にみても高税率であり、企業の海外移転を防ぐためには法人税の引き下げは不可避といわれています。法人税が現状よりも下がれば、法人化の節税効果はより一層高まります。ぜひ、前向きに検討してみてください。
また、「遺言書」は「争続」のおそれがあるのであれば、これなしで相続を迎えるのは大変に危険です。「争続」が起こり、遺産分割協議がまとまらなければ、スムーズな相続税の申告・納付は不可能になります。「遺言書」は、そのような事態を防止できる最も効果的な手段なのです。
なお、遺言書は、被相続人が自らの意志をしっかりと表明できるうちに作成することが必要となります。ですので、できるだけ、早い段階でその作成を検討することが望ましいでしょう。
この2つに加えて、最も理想的な相続対策を言えば、それはやはり家族がいつまでも円満な関係を保ち続けることです。
兄弟姉妹がみな仲良く、尊敬し合っているような家では、そもそも相続争いなど起きませんし、相続税の支払いについてたとえ悩むことがあっても、全員で前向きに相談し合ってベストの選択をできるに違いありません。
もし万が一、今現在、兄弟姉妹間で折り合いの悪い状態があるのならば、互いに歩み寄って、そのような状況を解消されるよう努めることをお勧めします。
たった1世代の争いが原因で、遠い祖先から、長い年月にわたって受け継がれてきた「家」が失われてしまう・・・そんな取り返しのつかないことが起こる前に、できること、変えられることがまだまだあるはずです。
またもう一つ、お子さまをお持ちの方々には、ぜひ、家庭での教育の大切さについてもあらためてお考えいただければと思います。昔は、学校などでも、「親や先祖を敬うように」「兄弟は仲良く」ということがごく当たり前のように教えられてきました。戦後教育の中で、そうした道徳的な時間が失われたことが、昨今の急増している相続争いの一つの大きな背景となっているように感じられるのです。
小学校低学年の子どもであっても、来客に対する挨拶などがしっかりしているような家をみていますと、家族の絆が非常に強く、相続があっても「争続」の影など全く感じさせません。
きちんとしつけられ、家族円満の大切さを十分に実感しながら育つ子どもたちがいれば、おそらく、「家」はその次代へと確実に引き継がれていくはずです。
2013年11月吉日
土田士朗