しかし、第2章で触れたように、税理士といっても得手不得手があります。そのため、顧問税理士が相続税については必ずしも精通していないような場合にまで、相続対策をそのまま任せてしまうと、重大なトラブルに巻き込まれないとは限りません。
また、法人を経営しているような場合には、個人の顧問税理士と、法人の顧問税理士が異なっているということがあります。
そのような場合には、前述したように個人、法人双方について行っている節税対策に矛盾があったとしても、それぞれの顧問税理士が気づかないまま、税務調査で初めて指摘を受けるという望ましくない事態に陥ることにもなりかねません。
そこで、やはり顧問税理士とは別に、相続税に通じた税理士に依頼して、個人、法人双方の過去の税金の申告書や決算書などすべてを満遍なくチェックしてもらい、矛盾のない相続対策をしてもらうことをお勧めします。
月々の顧問料の他に、さらに税理士費用がかかることに抵抗を覚える人もいるかもしれませんが、個人、法人双方の申告書について整合性の疑われるケースの場合、間違いなく、税務調査は複数年さかのぼって行われることになるでしょう。
その結果、何千万円、下手をしたらそれ以上に追徴課税されるおそれがあります。
少しばかり余分に税理士費用を払うことで、そのようなおそろしいリスクを避けられるのであれば、むしろ安いものではないでしょうか。
また、相続専門の税理士を選ぶ際に、いくつか注意を促しておきたい点があります。
まず、基本的なことになりますが、宣伝や広告だけを見て依頼してしまうのは危険です。
たとえば、電車広告等で、「相続税が心配なら、○○会計事務所にお任せください!」などという宣伝文を目にしたことはないでしょうか。
近時、都心などに拠点を持ち、大勢のスタッフを抱え、大量の相続案件をスポット的に処理している税理士法人が、このように派手に宣伝活動を展開しています。
そうした大規模な税理士法人に依頼した場合、請求される報酬は高額になりがちです。ケースによっては、地元のローカルな事務所の2倍近くとられることもあるでしょう。
もしかしたら、「報酬を高くとっているのだから、いい仕事をしてくれるに違いない」と思い込む人もいるかもしれませんが、税理士の仕事は、「値段の高さ=クオリティーの高さ」といえるような単純なものではありません。
基本的に地元に根ざした活動を行なっているローカルな税理士事務所の多くは、「事務所が回って、一緒に仕事しているスタッフが食べていければいい」というスタンスで報酬の額を決めています。
また、顧客を長い期間にわたり継続してサポートしていくことに重点を置いているので、報酬が顧客にとってできるだけ負担とならないような額にすることを心がけているはずです。
このように、税理士報酬の金額はそもそも能力とは無関係な形で決定されているので、税理士の能力を、報酬の額から推測したり、判断することは無意味といってよいでしょう。
むしろ、都心等を拠点に大規模展開しているような税理士法人は、スタッフの人件費や広告・宣伝費に多額のコストをかけていることから、とにかく数をこなしてかかったコストを回収しようとする傾向があるため、一つ一つの案件に十分な時間をかけられず、仕事がぞんざいになるおそれがあるかもしれません。
また、中には、急ごしらえで規模を大きくしてきたため、キャリアのあるスタッフを十分に確保できていないようなところもあります。そのような税理士法人では、昨日今日、税理士の資格をとったばかりのような若い人が、一人で担当を任されるようなことがあります。
依頼した側としては、「こんなに若いあんちゃんで大丈夫なのだろうか……」と不安を抱くこともあるでしょう。
また、都市農家における相続対策においては、単純に相続税を安くできればよいというわけではなく、家を守っていくために、相続争いで家族関係が壊れないようにすることも強く求められます。
しかし、大規模展開している税理士法人には、そのような配慮はあまりみられません。ともすれば、税金を安くすることだけを追求する傾向があり、「家族関係のことまでは気にしていられない」というようなスタンスのところが少なくないように感じられます。
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