税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 具体例を一つご紹介しましょう。

 最近、私はある人から相続税に関する相談を受けました。

 その人は、すでに法人化の手法により相続税対策を行っていました。

 まずその対策の中身についてチェックしたのですが、気になったのは、法人の代表者となっている者が、専従者給与を受け取っていたことでした。つまり、法人化の手法とあわせて、専従者給与控除を用いた節税対策も同時に行っていたのです。

 青色申告事業者は、家族へ給与を支払うことで、その給与分の控除を受けることができます。これを専従者給与控除といい、個人事業者を中心に広く行われている非常にポピュラーな節税手法です。

 ただ、このケースで、専従者給与控除を用いることには大きな問題がありました。

 そもそも専従者給与の「専従者」は、個人事業主と生計を一にする配偶者や15歳以上の親族で、年間6ヵ月以上その事業にもっぱら従事している人を意味します。したがって、通常法人の代表者が「専従者」となることはありえません。

 逆に言えば、専従者給与を得ているとすれば、自ら法人の代表者ではないと言っているのと同じことになります。

 税務署がチェックすれば、すぐに気づくような矛盾であり、税務調査のきっかけとなってもおかしくない重大なミスといえます。

 また、相続対策を独力で行い失敗する例は、遺言書の作成でも多々みられます。

 以前、ある人から、「懇意にしている不動産業者のアドバイスを受けて作った遺言書だが問題ないだろうか」と相談されたことがあります。

 遺言書の内容は、遺言作成者が自分の長男に主要な財産を相続させることを目的としていたようでしたが、目を通してみると、遺留分についての配慮が全くなされていないような代物でした。これでは、長男以外の相続人から留意分減殺請求を起こされる、すなわち「遺留分をよこせ」と求められることは必至であり、わざわざ遺言書をこしらえた意味がありません。

 このように、相続対策を素人判断で行ったり、あるいは専門家以外の者に任せてしまうと、時間と手間はかけたけれど、期待していたはずの効果が得られなかったり、かえってトラブルのもととなるおそれがあります。

 そのような事態を避けるためにも、相続対策を行うときには、ぜひ、専門家をサポート役として上手に活用することを前向きに検討してみてください。

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