これは地主の方々が共通して、頭を悩ませている大きな難問です。
ことに、都市農家の場合には、この難問に、いろいろな優遇税制にかかわる問題も複雑に絡んでくることに注意を払っておかなければなりません。
都市農家を含め、農家に対しては、その保護を図って特別な優遇税制がいくつか用意されています。
まず、固定資産税については、三大都市圏の特定市の市街化地域内のうち生産緑地の指定を受けた農地については「農地評価」として、税負担が大きく軽減されています(市街化調整区域内にある農地についても同じく農地課税です)。
一方、このような軽減措置のない市街化農地については、宅地並み課税を受けることになります(図表1−6参照)。
そのような宅地並み課税を受けるような農地を一つでも持ってしまったら、わずかばかりの農業収入は固定資産税にすべて食いつぶされることになるはずです。
逆に、市街化農地の固定資産税が一反で20万円かかるような場合でも、生産緑地であればせいぜい500円、1000円程度のレベルです。
多くの都市農家は、現実問題として、自己の土地を生産緑地にしていなければ、農業で生計を立てることは困難です。
また、相続税については、農地等の納税猶予制度が設けられています。納税猶予とは、相続人が取得した農地で引き続き農業経営を行う場合には、相続税の納税を猶予するというものです。
適用条件については、三大都市圏の特定市では、生産緑地地区及び市街化区域外の農地では終身適用されるが、市街化区域内の農地では適用がないなど、地域によって相違があります(図表1−7参照)。
納税猶予が認められれば、実質的には相続税を免除されるのと同じことになります。
他の業種ではみられない、農家だけに認められた非常に大きな”特権”といえるかもしれません。
そのため、「農家優遇の不公平税制だ」などの批判もあり、過去には国会等で、その廃止が議論されたこともあります。
仮に納税猶予が廃止されれば、これまで猶予されてきた相続税を一括して支払わなければならなくなります。
私のクライアントの中にも、数億円の納税猶予を受けている人がいます。万が一納税猶予がなくなった場合、それだけの額の税金を一括して支払うことは不可能でしょうから、納税資金を工面するためには所有する不動産を売らなければならなくなります。
現状は、納税猶予がすぐになくなるような状況にあるとはいえませんが、今後、どうなるかはわかりません。
地主の立場としては、万が一の場合も想定し、一つのリスク要因として、警戒しておく必要があります。
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