もちろん、土地・建物に関する相続の悩みは、地主の方々に限ったものではありません。ごく普通の会社員の家庭であっても、何十年も家族全員で暮らしてきたマイホームに対する思いには特別なものがあるはずです。それをどのように相続すべきか、というのは、決して小さな問題ではありません。
しかし、あえて言えば、地主の方々の場合には、一般の家庭以上に、不動産の相続の問題が非常に深刻な悩みとなって目の前に立ちはだかります。
所有する土地が多いということは、とりもなおさず、土地の相続を巡るトラブルがそれだけ生じやすくなることを意味するからです。
ことに、都市農家の方々の場合には、都市農業が現在直面している様々な問題が複雑に絡み合い、より事態を深刻なものにします。
そのため、「相続と土地」の問題を円満に解決するためには、そうした都市農家特有の問題を適切に把握しておく必要があるでしょう。
その際に、重要となるのは、都市近郊における農地の意味や価値に生じた、一つの大きな”変化”を十分に理解しておくことです。
言うまでもないことですが、農業を営む人々にとって、農地は、米や野菜を生み出すために欠かせないものです。例えるなら、メーカーにとっての工場と同じであると同時に、家族全員が生活してくための、いわば”生命線”というべき場でもあります。
しかしながら、このような農地の意味合いは、都市農家においては、戦後の高度経済成長の中で、大きく変わってきました。
まず、農村地帯が都市化する中で、農家の中では耕作に使用していない農地をアパートや商業施設等の形で活用する動きが現れはじめました。
農家の人たちからすれば、当初は、おそらく本業以外の副収入を得ることが目的だったのでしょう。「余っている土地をそのままにしていてももったいない。小遣い稼ぎぐらいにはなるだろう」程度の気持ちだったのかもしれません。
しかし、「副収入」だったはずのそうした不動産経営所得は、時がたつにつれ、都市農家の人たちにとってむしろ主要な収入源となっていったのです。
まず、農林水産省が平成23年10月に公表した「都市農業に関する実態調査結果の概要(農村振興局)」にみられる、農産物の販売金額をまとめた図表1−1をご覧ください。
そこに示されているように、年間販売金額100万円未満(販売なしを含む)の農家が全体の約6割りを占める一方で、年間700万円以上を販売する農家は約1割にすぎません。
つまり、都市農家においては農業生産物だけでは、生計を立てづらい状況となっているのです(ちなみに、年間700万円以上を販売する層は、露地野菜と施設野菜を中心に作っており、主な出荷先は卸売市場が中心となっています)。
このうち、「農業所得」は25%で、「不動産経営所得」が約65%を占めています。要するに、全国的にみても今や、都市農家の主たる所得の源として、不動産経営は欠かせないものになっているのです。
ちなみに、図表1−2の下段の円グラフは、農家全体における農家の所得の構成比を示したものですが、不動産経営所得を含む商工鉱業所得は約10%です。
これとの対比からも、都市農家では、不動産経営からの収入が重要なものとなっていることがわかります。
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