税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 会計には「現金主義」と「発生主義」という言葉があります。どちらで会計処理を行うかで、月次決算の数字は大きく変わってきます。

 「現金主義」とは、収益と費用を現金の受け渡しの時に認識する会計原則です。例えば、小売店が商品を売った場合、「現金主義」では商品の納品時や相手先への請求時には仕訳をせず、請求額が入金された時に売上を計上します。仕入れの場合も同様に、商品の検品時や仕入先からの請求時には仕訳をせず、請求額を支払った時に仕入を計上します。

 これに対し「発生主義」では、商品の納品時に売上と売掛金を計上し、請求額が入金された時には、売掛金が入金されたことを仕訳します。仕入れの場合は、商品の検品時に仕入と買掛金を計上し、請求額を支払った時には、買掛金の支払いを仕訳します。

 「現金主義」の方が収益や費用と入出金が連動しているので理解し易く、管理も簡単そうに思えますが、商品を納品しても入金されるまで月次決算には反映されず、また請求書を受け取っても支払うまでは月次決算ではわかりません。これでは儲かっているのか損しているのかの把握が遅れてしまうだけでなく、来月以降の運転資金が足りるのかどうかがわからなくなってしまいます。

 また、「現金主義」のままでは決算書が会社の状態を正確に反映していないため、決算申告を行うことはできません。決算時にはすでに発行している請求書、受け取っている請求書などをすべて洗い出し、「発生主義」に直してから申告を行う必要があります。中小企業ではこのように、期中では「現金主義」、決算時だけ「発生主義」という処理方法が多く見られますが、結果として決算をしてみないと利益が出ているかどうかわからないということになりがちです。

 日頃から「発生主義」で月次決算をしていれば、納品した月に売上、納品された月に仕入れが計上されますので、売上がいくらあるか、在庫はどれだけあるかが月次決算からリアルタイムにわかるだけでなく、売掛金と買掛金がそれぞれいくらあるかも把握できますので、これから資金繰りが厳しくなりそうかどうかもわかりやすくなります。

 「現金主義」は経営者の判断を誤らせる原因となるだけではなく、月次決算書を見ても会社の状態がわからないことから、銀行との交渉も難しくなります。毎月きちんと「発生主義」で月次決算を行うことから始めましょう。

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