最近の税務調査の傾向

①法人の税務調査の傾向

税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 国税当局は、法人税の実地調査にあたって、「消費税還付申告法人」「無申告法人」「海外取引法人等」に対して重点的に取り組んでいます。

 「消費税還付申告法人」に対しては虚偽の申告により不正に還付金を得るケースも見受けられるため、こうした不正還付等を行っていると認められる法人を的確に選定し、厳格な調査を行っています。その結果、平成26事務事業年度(以下、いずれも東京国税局)において、「消費税還付申告法人」2,434件に対し実地調査を実施し、消費税24億6百万円を追徴課税しました。そのうち202件は不正に還付金額の水増しを行っており、4億5百万円を追徴課税しました。

 「無申告法人」とは、事業を行っているにもかかわらず、申告をしていない法人をいいますが、同じく平成26事務事業年度において、909件の実地調査を実施し、法人税13億5百万円、消費税14億33百万円(実地調査699件)、合わせて27億38百万円を追徴課税しました。

 企業の事業、投資活動のグローバル化が進展する中で、「海外取引法人等」の中には、海外の取引先から売上を除外するなどの不正計算を行うものが見受けられます。このような「海外取引法人等」については、租税条約に基づく情報交換制度を積極的に活用するなど、深度ある調査に取り組んでいます。その結果、「海外取引法人等」に対する実地調査を6,324件行い、このうち非違のあったもの1,385件、申告漏れ所得を1,287億円把握しています。同じく「海外取引法人等」に対する源泉所得税の調査では、源泉所得税の課税漏れを801件把握し、24億31百万円を追徴課税しています。

②個人の税務調査の傾向

 国税庁では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などの、いわゆる「富裕層」に対して実地調査を行い、平成26事務事業年度においては、1,515件の実地調査を実施し、追徴税額は、41億円となっています。また、法人と同じく「無申告者」「海外取引を行っている者」「インターネット取引を行っている者」に対して重点的に実地調査に取り組んでいます。

 「無申告者」に対する実地調査件数は、平成26事務事業年度において、所得税ついては2,238件行なわれ、追徴税額は50億円に上ります。同じく消費税については、1,766件行われ、追徴税額は21億円に上ります。

 「海外取引を行っている者」に対する実地調査は、平成26事務事業年度において1,455件行われ、1件あたりの申告漏れ所得金額は2,592万円で、全体の1件あたりの申告漏れ所得金額1,133万円の約2.3倍となっており、申告漏れ所得金額の総額は377億円に上ります。

 「インターネット取引を行っている者」に対する実地調査件数は407件とまだ少ない件数ですが、1件あたりの申告漏れ所得金額は1,354万円で、全体の1件あたりの申告漏れ所得金額1,133万円の約1.2倍とおり、申告漏れ所得の総額は55億円に上ります。
 

③相続税の税務調査の傾向

 平成26事務事業年度において、法人税の1件あたりの追徴税額は、266万円、所得税の1件あたりの追徴税額は170万円ですが、相続税の1件あたりの追徴税額は760万円と断トツに多いことが分かります。

 相続税は、法人税・所得税のように、どの会社でも・誰でも、毎期・毎年申告する税目と違い、相続が発生しても9割以上の相続人は、相続税が発生せず、相続税の申告に無縁であることから、贈与税を含む相続税法に対し理解が不足していることが要因と思われます。

 その証拠に、申告漏れの相続財産は現金・預貯金等と有価証券を合わせると、全体の申告漏れ相続財産の50%を超えています。この第一の要因は、家族名義などの名義預金・名義有価証券の漏れが原因です。過去に被相続人が親族に贈与したと認識していた贈与が、贈与とは認められず、被相続人の財産とされてしまう様なケースです。

 また、最近の傾向としては、納税者の資産運用の国際化に対応し、相続税の適正な課税を実現するため、租税条約等に基づく情報交換制度を活用するなど、海外資産の把握にも努めています。

書面添付制度で税務調査をしっかりサポート

 上記のような意図的な申告漏れや無申告、不正還付や海外取引などについては、皆様にとっては、無縁のものと思います。

 皆様の会社・個人事業・相続税の税務調査対策には、書面添付制度が有効です。書面添付制度とは、税理士法第33条の2に基づき、税理士が申告書に添付するお医者さんで言うところの「カルテ」のようなもので、税務申告書に「申告書の適正性を表明」する書面を添付する制度を言います。

 この制度の目的は、税理士が申告書の作成に関して、どの程度関与し、どのように調整したものであるかを積極的に明らかにすることによって、より正確な申告書を作成して提出するとともに、税務当局においても、税理士が責任をもって計算し、整理し、または相談に応じた事項については、これを尊重することによって、税務行政の円滑化と簡素化を図ることが期待されています。

 弊事務所では、法人・個人・相続を問わず、書面添付制度をお勧めし、書面を添付しています。

 法人・個人はもちろんですが、昨今、特に相続税の書面添付の重要性を感じます。後述のとおり、法人・個人との違いから、相続税の申告では、より深く説明しないと疎明できない複雑な事項が沢山あります。なかなか進まない相続税の書面添付ですが、弊事務所の相続税は、「安心の100%書面添付」です。

 申告書に税理士法33条の2の書面が添付されると、「税務調査をするには、書面を添付した税理士の意見を聴かなければならない(税理士法第35条:意見聴取)」ことになっています。

 また、意見を聴いた上で調査の必要がないと認められた場合には、税理士に対し「現時点では調査に移行しない」旨の「調査省略通知」が送付されます。まじめな納税者は書面添付制度により、税務調査に怯える必要がなくなります。

税務調査をしっかりサポート

 残念ながら、税理士の意見を聴いた上で、税務調査に移行することが、全くないとは言えません。

①日程調整は経営者のご都合で

 税務調査は大きく分けて、強制調査と任意調査がありますが、皆様に関係があるのは、任意調査でしょう。何も不正などをしていなくても、調査を受けるのは気持ちの良いものではありません。

 税務署からは、原則として税理士を通じて調査の依頼があります。調査予定日については、多少ゆとりを持って連絡が来ますが、以前から入っている大切な商談や出張、プライベート上の重要な予定がある場合には、その事情を説明して日程調整をします。

②事前の連絡がなく突然、税務調査に来たときの心得

 弊事務所では、書面添付制度を前提としているため、事前連絡がなく、税務署が突然「現況調査」に来ることは、まずありません。

 しかし、万が一事前連絡がなく、突然「現況調査」に来た場合には、はっきりと、「調査には協力しますが、税理士が来るまで待って下さい。」と伝えて下さい。併せて、税務調査官の所属や名前はきちんと聞いて下さい。弊事務所がすぐに現場に駆けつけます。

③税務調査の流れ

・法人、個人の場合

 昨今、税務調査官は、調査件数を増やすために、1事案について効率よく調査をすることが求められています。昭和や平成の初期の時代のように、税務調査官がいつまでも、よもやま話をして、なかなか調査に入らないということはありません。

 また、税務調査官が、会社や事業所に来て調査に要する日数としては、業種や会社の規模にもよりますが、中小規模法人の場合は、2日程度、同じく個人の場合は1日程度です。

 双方の挨拶の後は、まず代表者が応対して下さい。税務調査官は、代表者の人となりについて、注意深く観察しています。そして、経営の概況・特色・業界の現況などについて話して下さい。ある程度の規模ならば、事業案内のパンフレットや組織図などを用いて説明するのが良いでしょう。

 忙しければ、代表者は、大まかな説明が済みましたら、仕事にお戻り下さい。後の税務調査には、経理担当者や弊事務所が立ち会います。

 また、税務調査官の質問には、簡潔に答え、自信がないときには即答を避け、調べ
てから答えましょう。

・相続税の場合

 自宅などで行う、相続税の税務調査に要する日数は、おおむね1日です。

 挨拶の後は、税務調査官から被相続人の人となりについて質問がありますので、相続人代表からお答え下さい。

 相続税の税務調査が、法人、個人の税務調査と決定的に違うのは、法人、個人は、請求書や領収書などの証ひょう類や帳簿の調査がありますが、相続税には存在しないことです。

 また、税務署内での机上調査において、土地評価の問題点、預貯金や有価証券の漏れなどは、洗い出してきますので、ピンポイントの質問が来ます。

④調査の着地

 税務署は、税務調査で得た情報から指摘事項をまとめ、上長である統括官等の意見を求めます。当然ですが、税務調査官が、現場での調査の時に結論を出したりはしません。
  
 後日、税務調査官が、税務署としての指摘事項について、弊事務所に連絡をしてきます。税務調査官は、より多くの指摘を納税者に認めさせ、自ら「修正申告」をすることを勧めてきます。なぜならば、納税者が「修正申告」に応じない場合、税務署が職権で行う「更正処分」は、その後において、納税者がその処分の内容に納得がいかない場合には「異議申立て」ができますが、自ら「修正申告」をしてしまうと、その後において「異議申立て」ができないからなのです。

 つまり、安易に「修正申告」をすると、納税者が過ちを認めたことになり、自らその後の権利を放棄したことになります。

 弊事務所は、曖昧なかたちでの税務署からの「修正申告」の勧めには応じず、税法等に照らし合わせ、主張すべきことは主張し、税務調査をしっかりとサポートします。