税理士には包み隠さずすべてを話すことが大切

税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 専門家を探す場合、相続税に関しては、やはり、税理士にサポートを依頼することになると思います。
 税理士をサポート役として使う際に、知っておくと、よりスムーズかつ効率的に節税対策を行えるポイントがいくつかありますので、ご紹介しておきましょう。

 まず、大原則として、相続税の申告に関して必要となる情報に関しては、他人にはあまり知られたくないと思っていること、話しづらいことも含めて、「本当のこと」をすべて税理士に伝えるようにしてください。ことにスポット(単発)で依頼するような場合には、税理士は、ふだんから付き合いのある顧問先の相談を受けるような場合とは違い、依頼人の状況について全く何も把握していません。

 相続税対策を万全な形で行うには、依頼人の資産状況から家族構成、被相続人と相続人の関係など様々な事情を十分に理解しておく必要があります。どれだけの財産があるのか、依頼人にどのような事情があるのかによって、選択できる対策手段は大きく異なってくるからです。

包み隠さず話しておけば税務調査への対応もスムーズに行える

 また、依頼人から、第三者には隠しておきたいと思うようなことでもしっかりと伝えておいてもらうことは、税務調査への対策を考えるうえでも非常に重要となります。

 たとえば、マンションやアパートを経営しており相当の不動産収入を得ているはずなのに、どういうわけかほとんど預貯金がないという人がいます。このような状態で。仮にその人が亡くなった後、相続人が、「預貯金は500万円しかない」などと申告すれば、まず間違いなく、なぜそんなに少ないのかと税務署から怪しまれることになります。

 いったん怪しいと思われたら、徹底的にすべてを疑われる、つまりは痛くもない腹を探られることになりかねません。「お金の管理がしっかりとできていない=まともなわけがない=脱税をしているのでは?」というのが税務署的なものの考え方なのです。

 あらぬ疑いをかけられたくないのであれば、なぜ預貯金がほとんどないのか、その理由を明らかにする必要があります。もしかしたら、父親がひそかに交際していた女性に後先考えずにお金を渡していたために、手元からなくなってしまったのかもしれません。

 そのような事情があるのであれば、税務調査の際などに税理士が調査官に説明する、もしくは前述した書面添付の添付書面に書き添えることで、脱税の疑いを避けることが可能となります。しかし、「恥ずかしいから隠しておきたい」とかたくなに“真実”を隠し通されてしまっていては、税理士としては何も手の打ちようがなくなるのです。

相続が起きる前に税理士に相談すれば解決の選択肢も広がる

 ことにスポット的な依頼の場合にありがちなことですが、相続が発生した後になって、相続税対策を依頼してくる人がいます。しかし、具体的な相続対策のほとんどは事前にできるものが中心であり、事後にできることは土地の評価額を下げる程度に限られます。

 そうしたことを考えると、やはり相続が始まる前に、ご相談いただく方が、ベストの対策プランを組めることは否めません。しかも、対策を始めるのは早ければ早いほどよいでしょう。万が一、家長が認知症などを患い成年被後見人としての扱いを受けることになってしまったら、とりうる対策の選択肢が非常に限られることになります。

 たとえば、家長が成年被後見人でありその子どもが後見人となっている場合、相続対策として、不動産の有効活用を図ろうとするならば、さらに成年後見監督人が指名されることになります。

 成年後見監督人には、家族以外の第三者、具体的には司法書士や弁護士等の専門家がつくのが一般的です。そして、子どもが、父親の不動産について有効活用を進めるうえで必要となる、不動産業者との契約などもろもろの法律行為をするためには、成年後見監督人の同意が必要とされています。子どもが、親の財産を不当に浪費したり、その財産価値を毀損したりするのを防ぐためです。

 この成年後見監督人からの同意を得ることが、実は、非常に厄介なのです。成年後見監督人は、基本的に、成年被後見人の資産の現状が大きく変わることに対して消極的です。

 たとえば、息子が、父親の所有する遊休土地に、父親名義で銀行から借り入れをして、収益物件を建てることを計画したとします。しかし、父親がすでに別にアパートを持っているような場合には、「現状で安定した賃料収入が得られているのですから、今のままでいいじゃないですか。何も、銀行からお金を借りてまで、これ以上、収益をあげようとしなくてもいいでしょう」などと言って、同意してくれない可能性が高いでしょう。

 そもそも、相続対策をしたからといって、成年被後見人自身にとっては何の利益にもなりません。成年被後見人を保護すべき立場にある成年後見監督人からすれば、そんな意味のないことのために、成年被後見人の財産を使ったり、あるいは借金を負わせるようなことを、「なぜ認めなければならないのだ」となるのも無理はないでしょう。

土地持ちの相続はその土地を熟知した税理士に任せる

 相続税案件だけをスポットで請け負うことを方針としているような会計事務書と依頼人との関係はあくまでも、その1回限りです。ですので、「案件を処理した後で、依頼人がどうなろうが知ったことではない」というような仕事の仕方になるのもやむをえないのかもしれません。

 しかし、地元で長年、地に足のついた活動をしてきたローカルな会計事務所は、依頼人に対して、こうしたその場限りの、後先考えないような対応をするわけにはいきません。もしそんな対応をしてしまったら、「○○さんが、あそこの事務所に依頼したが、あまり真面目に仕事をしてくれなかったようだ」などとすぐさま地域に悪評が広がっていくはずです。

 ローカルな会計事務所にとっては、地元での信用が第一です。たとえ一度でも悪い評価を受けてしまえば、それまで必死に頑張って築いてきた信用が失われ、事務所の存続にすら影響してしまうかもしれないのです。

 そのため、たとえ1回限りの依頼であっても、常に全力で取り組むはずです。また地元の事務所であり、その地域の空気や特殊事情等を普段から把握していることから、たとえば依頼人が農家ならその地域の農家において配慮すべき典型的な事情などについても十分考慮に入れたうえで、万全の対策をとることが可能となります。

 さらに言えば、スポットだけで対応する会計事務所では、税務調査の場合などに、税務署の対応が変わってくる可能性もあります。

 税務署の署員も、仕事上、地元の会計事務所の税理士の顔はよく知っており、お互い気心が知れているようなところがあります。そのような関係を背景として、税務署の側には、「あの事務所のクライアントなら、しっかりと申告しているはずだ」という信頼感や安心感が存在するのも事実です。

 それなのに、都心からやってきたよく知らない会計事務所のスタッフが税務調査などに対応したりなどすれば、「地元の税理士に頼まないということは、何か策を弄して相続税をごまかそうとしているのではないか」などと、税務署が警戒心を強める可能性があります。

 このような税務調査上のリスクなども念頭におけば、やはりできるだけ地元の税理士事務所の中から相続税に強い税理士を見つけるのが望ましいといえます。

 また、付随的なメリットとして、地元に密着して活動をしている税理士に依頼した場合、不動産の有効活用についても、助言を受けられる可能性があります。

 一口に「不動産の有効活用」と言っても、様々な形が考えられます。マンション、アパートのような住宅系の他にも、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどの商業系、さらには最近では有料老人ホームやグループホーム等の介護系も有力な選択肢の一つとなっています。

 そのどれを選ぶのかは、立地やオーナーの求める投資利回り等によって変わってきます。

銀行交渉に長けた税理士を選ぶ

 土地の有効活用を図る際には、通常、銀行等の金融機関から融資を受けることになるはずです。そこで、できれば、そのサポート役も安心して任せられる税理士、つまりは銀行との交渉に長けた税理士を選ぶことが望ましいでしょう。

 というのは、特に都市農家の方に多いのですが、融資の際の貸し出し条件について銀行に言われるがままになっているために大きな不利益を被っているケースがみられるからです。

 たとえば金利一つとっても、銀行から、「10年固定で1.8%でいかがでしょうか」などと言われると、そんなものかと思い、そのまま受け入れてしまう人が少なくありません。しかし、今であれば、それよりも低い利率、たとえば1.2%で融資してくれるところもあるでしょう。仮に億単位で借りていれば、金利が0.6%も違えば、最終的に返済する金額が数千万円も変わってきます。

 また、そもそも、借入金の返済方法には、元利均等と元金均等という2つのタイプがあるのですが、ほとんどの人は、その違いについても全く無頓着です。

 元利均等返済は、元金と利息を合わせた返済額が変わらないタイプで、たとえば返済額を50万円としたらそのままずっと50万円を返済し続けるやり方です。

4-2

 一方、元金均等返済は、元金部分を返済期間で均等に割り、元金部分の残高に応じて利息部分を計算し上乗せしていく返済方法です。元金の返済額は固定しており、それに利息をプラスして支払っていくイメージです。

 返済当初は、元金均等の方が、返済額が大きくなるので、支払いがきつく感じられるかもしれませんが、トータルで考えれば、返済総額は少なくすみます。逆に言えば、銀行からすれば、元利均等返済の方がより多くの支払いを得られることになる、つまり“もうけ”が大きくなるわけです(図表4−2参照)。

 本来は、このような両者の違いをしっかりと踏まえたうえで、どちらの形で借りるのかを決めなければならないのですが、ほとんどの人は、銀行に勧められるがまま、(銀行にとってはありがたい)元利均等返済を選択している状況があります。

 金利の計算等は複雑で一般の人にはわかりにくいところがあります。それだけに、「計算のプロ」である税理士のサポートがあれば、銀行との交渉において心強く大きな安心感を得ることができます。

相続税を手がけている税理士は実は少数派

 相続時に混乱したり、動揺したりしていると、相続案件を依頼するのには不適切な税理士に依頼して思わぬトラブルに巻き込まれてしまうことがあります。

 税理士と聞くと、どんな税務でもオールラウンドにこなしてくれると思っている人がいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。やはり、向き不向き、得手不得手はあります。

 また、そもそも相続税については門外漢という人がいます。相続税の案件を、そのような専門ではない税理士に依頼してしまうと、ありえないような処理をされてしまうこともあります。

 実際、私が過去にかかわったケースには、こんな例がありました。

 あるとき、知人の不動産業者に、「土田さん、気になることがあるので、ちょっと見てもらえないか」とその人が懇意にしていた一家の相続税の申告書を見せてもらいました。

 目を通してみると、まず広大地評価が適用されそうな農地があるにもかかわらず、全く検討されていないようでした。広大地評価については、微妙な解釈や判断を迫られることもありますが、このケースでは広大地評価をとれることは誰の目にも明らかでした。しかも、その結果として数千万円も相続税が下がる可能性がありました。

 さらに、驚いたのは、小規模宅地等の特例が間違って使われていたことです。

 小規模宅地等の特例とは、一定の条件を満たした居住、事業用の宅地の評価額を減額する特例です。亡くなった被相続人の財産で、居住や事業に使われていた宅地は、相続人が引き続きそこで暮らしたり事業を行ったりする場合、重要な意味を持つことになります。小規模宅地等の特例は、そのような点に配慮して設けられている相続税の優遇措置なのです。

 申告書では、この小規模宅地等の特例に基づいた処理がなされていたのですが、なんとその対象となっていた土地は農地だったのです。そもそも農地の上には何も建てることができませんので、居住用はもちろん事業用の宅地として評価することなど不可能です。つまり、小規模宅地等の特例を適用する余地はありません。これは相続税を扱う税理士であれば、当然、知っておかなければならない知識であり、およそありえないようなミスです。

 結局、その申告書については、広大地評価等を含めて、私が修正したうえで、更生の請求を行いました。

 ちなみに、この税理士は、とある地域の税務署長を務めた後で、税理士になった人でした。依頼した相続人からすれば、元税務署長なのだから、相続税について知らないはずがないと思っていたのかもしれませんが、そんなことはありません。

 税務署でも、それぞれ専門があります。その人の経歴をみると、もっぱら法人ばかりを担当してきたようでした。相続とは全く関係がありません。

 よらば大樹の陰ではありませんが、一般の人々の間では、税務署OBの税理士を、「何しろ税務署で働いていたのだから、その辺の普通の税理士より信頼できるにちがいない」などと、ことさらに重んじる傾向がみられます。そのような思い込みが、相続税も当然大丈夫という過信の原因となってしまうのかもしれません。

 そもそも、相続税を納めている人は相続が発生した人のうちの4%程度です。つまり、相続税の案件そのものが、税務全体の中ではごくわずかな数しかないのです。そのため、一生の中で一度も相続税の案件を扱ったことがないという税理士も少なくありません。

 そのような税理士が、「今までにやったことはないが、チャレンジしてみるか」と相続税の申告を手がけてみても、どのような結果になるのかは、はなから想像がつきます。

 もちろん、これは相続税に限った話ではありません。売り上げが数百万円、数千万円という規模の小さな会社の法人税業務しか手がけたことがないような税理士が、売り上げが数億単位になるはるかに規模の大きな法人の会計を扱おうとしても、そもそもそれだけのノウハウがないでしょう。

 企業経営者であれば、恐ろしくて、そのようなノウハウも、経験もない税理士には税務申告を依頼しようとしないはずです。また、税理士自身も、はなから無理だとわかっているので、「自分にはできません」と拒むはずです。

 しかしながら経験がない税理士は、全く相続税を手がけたことがないのに、安請負するようなケースが多々見られるのです。

 では、いったいなぜ経験もノウハウもないような税理士が、いわば無理をしてでも相続税を扱おうとするような状況がもたらされているのでしょうか。

 まず、相続税の申告業務から得られる報酬は、法人税や所得税の報酬に比べて高額になる傾向があります。

 しかも今後、基礎控除額が大幅に下ることから、いわゆる富裕層だけでなく、誰でも相続税の申告を行うような状況になることが確実視されています。つまり、”相続税市場”のパイが大きく膨らんでいくことが予想されているわけです。

 このような高額の報酬、市場の有望性という理由から、経験のない税理士が相続税業務に競って触手を伸ばしてきているのです。

 しかし、相続税は金額が大きいだけに、ミスをすれば、評価額も億単位で変わってくることが珍しくありません。前述した広大地評価の見落としなどはその最たる例といえます。

 評価額が億単位で変わるということは納税額が1000万単位で変わってくるということを意味します。

 相続税には、そのようなミスをした場合の怖さがあるのですが、これまで相続税と縁がなかったような税理士は、果たしてそのことを十分に認識しているのでしょうか。

 長年、相続税の怖さをイヤというほど実感してきたものとして、一抹の不安を覚えずにはいられません。

税理士の選択が税金の金額を大きく左右する

 都市農家の場合であれば、やはり広大地評価が重要なポイントとなります。したがって、税理士に依頼する際には、広大地評価に対してどのような判断基準を持っているかを確認することをお勧めします。というのは、税理士によって、広大地評価に対するスタンスが大きく異なるからです。

 たとえば、広大地評価をとることに対して積極的な者もいれば、どちらかといえば消極的な者もいます。そのため、同じ土地であっても、A税理士は広大地評価と判断してくれるが、B税理士は広大地評価と判断しないというようなことが起こりえます。

 ちなみに、私自身は、広大地評価について積極的なスタンスをとっています。やはり土地の評価額を下げることができれば、相続税がそれだけ安くなり、依頼人にとっては大きな利益となるからです。

 もっとも、ただやみくもに、「ここは広大地のはずだ」と主張するだけでは、土地の評価額を下げることはできません。やはり、税務署に広大地評価と認めさせるための戦略も必要になります。

 また、たとえば、類似の事例で、判例が広大地評価と認めていないとしても、あきらめることはありません。

 土地の形状等に関して、判例で判断されたケースとは異なっている要素があれば、その違いを強調し、税務署に自己の主張を認めさせることは充分に可能です。そのためには、地元の税務署が広大地に対してどのような判断基準を持っているのかをある程度把握しておくことが必要となります。

 したがって、広大地評価を活用して大きく相続税を減税したいのであれば、広大地評価に対して積極的な姿勢を持っている地元の税理士に依頼するのが望ましいと思います。