広大地評価を上手に使って”何もしない”対策を実現する
まず、広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比べて、著しく地積が広大な宅地で、建築物の建築等を目的として所定の開発行為をしようとした場合に、道路、公園や、教育施設、医療施設等の公共的あるいは公益的施設の用に供される土地の負担が必要と認められるものをいいます(ただし、大規模工場用地(一団の工場用地の地積が5万平米以上のもの)に該当するものおよび中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは除かれます)。
そして、この広大地として評価された場合には、相続税の申告時に、土地の評価額を大幅に減らすことが可能となります。ケースによっては、広大地評価を受けない場合に比べて、半分以下の額になることも珍しくありません。
したがって、相続税対策のために、借金をしてマンション、アパートを建てたりするようりも、むしろ何もしないでおいて、広大地評価の適用を受ける方がよほど有効な節税となる可能性もあるのです。
マンション適地の認められたら広大地にはならない
もっとも、広大地として評価されるためには、いくつかのハードルがあります。そのすべてについて詳しく解説すると1冊の本になるほどなので、ここでは、特にポイントとなる点だけを述べておきましょう。
まず、その土地が、マンション用地に適した土地、すなわちマンション適地と認められてしまうと、広大地として評価されなくなります。
そして、マンション適地と評価されるか否かは、後述するようにその時々の景気動向等によって左右される面が強くあります。
また、広大地として評価されるためには、戸建て分譲する際に、右で述べたような公共的あるいは公益的施設のために利用される「つぶれ地」を確保することが必要となります。
そのため、いわゆる旗竿地(路地状敷地)として戸建て住宅を建てられる土地は広大地として評価されません。(図表3−7参照)。
さらに、広大地と評価されるか否かは、税務調査官や評価担当者の判断によっても大きく分かれるところがあります。
したがって、広大地評価による節税を図る場合には、税務署とやりとりをする個々人の税理士の力量が問われることになるでしょう。
相続時精算課税制度で広大地評価を確定しておく
今、述べたように、広大地と評価されるかどうかは、その時々の景気動向等によって変わってきます。
まず、景気が悪いときには、建築業者等が不動産の開発を行う際、土地が安いので、戸建分譲にしてしまう傾向が強まります。たとえば駅からすぐ近くの好立地でも、マンションではなく戸建てが選択されるようになります。逆に言えば、広大地と評価されるエリアの範囲がそれだけ広がるわけです。
しかし、景気がよくなれば土地が高くなるので、戸建てよりも収益率のよいマンションが選ばれるようになります。その結果、逆に、マンション適地とみなされる範囲が広がり、広大地と評価されるエリアが狭まっていくわけです。
被相続人が亡くなったときに、相続した土地のあるエリアがマンション適地と評価されることになれば、広大地とは認められなくなるわけであり、広大地となるか否かはタイミングに左右されるところがあるといえます。
そこで、将来的にマンション適地となるおそれのあるエリアに土地を持っている場合には、相続時精算課税制度を使って、生前に広大地評価を確定しておくことを検討するとよいでしょう。
相続時精算課税制度とは、生前に贈与された財産について2500万円まではとりあえず特別控除の範囲なので、贈与税は課税されません。精算課税制度で財産の贈与を受けた分を相続時に相続財産に加算し、相続税で生産するという制度です。この制度を利用すれば、被相続人の生前に、2500万円以内の現金や不動産を相続人が贈与された場合でも、贈与税を支払わずにすみます。
また、贈与税が2500万円を超える場合には贈与税が課されることになりますが、その税率は一律で20%と定められています。しかも、納付した贈与税は相続税額を計算する際に控除されます。
相続時精算課税制度は、もっぱらサリーマン世帯を対象として相続税の負担軽減を図った制度であり、都市農家の方には、必ずしも効果的な節税方法であるとはいえないのですが、広大地評価との関係では、この制度を使う意味が大いにあります。
すなわち、所有する土地が広大地評価としての評価を受けられるときに、その土地を相続時精算課税制度を使って贈与しておけば、相続時には広大地評価としての評価額で相続税を納めればよいことになるからです。
要するに、万が一、その後の景気動向によって広大地として評価されなくなったとしても、すでに広大地として評価された評価額は変わらないのです。
ことに、将来的に景気が上がることが確実で、その際には、周囲にマンションが次々と建つことがほぼ間違いないようなエリアに土地を持っている場合には、この相続時精算課税制度を利用して、広大地評価を確定しておくことが肝要です。
税理士の選択が税金の金額を大きく左右する
都市農家の場合であれば、このように広大地評価が重要なポイントとなります。
したがって、税理士に依頼する際には、広大地評価に対してどのような判断基準を持っているかを確認することをお勧めします。というのは、税理士によって、広大地評価に対するスタンスが大きく異なるからです。
たとえば、広大地評価をとることに対して積極的な者もいれば、どちらかといえば消極的な者もいます。そのため、同じ土地であっても、A税理士は広大地評価と判断してくれるが、B税理士は広大地評価と判断しないというようなことが起こりえます。
ちなみに、私自身は、広大地評価について積極的なスタンスをとっています。やはり土地の評価額を下げることができれば、相続税がそれだけ安くなり、依頼人にとっては大きな利益となるからです。
もっとも、ただやみくもに、「ここは広大地のはずだ」と主張するだけでは、土地の評価額を下げることはできません。
やはり、税務署に広大地評価と認めさせるための戦略も必要になります。
また、たとえば、類似の事例で、判例が広大地評価と認めていないとしても、あきらめることはありません。
土地の形状等に関して、判例で判断されたケースとは異なっている要素があれば、その違いを強調し、税務署に自己の主張を認めさせることは充分に可能です。
そのためには、地元の税務署が広大地に対してどのような判断基準を持っているのかをある程度把握しておくことが必要となります。
したがって、広大地評価を活用して大きく相続税を減税したいのであれば、広大地評価に対して積極的な姿勢を持っている地元の税理士に依頼するのが望ましいと思います。
相続税を手がけている税理士は実は少数派
税理士と聞くと、どんな税務でもオールラウンドにこなしてくれると思っている人がいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。やはり、向き不向き、得手不得手はあります。
また、そもそも相続税については門外漢という人がいます。相続税の案件を、そのような専門ではない税理士に依頼してしまうと、ありえないような処理をされてしまうこともあります。
実際、私が過去にかかわったケースには、こんな例がありました。
あるとき、知人の不動産業者に、「土田さん、気になることがあるので、ちょっと見てもらえないか」とその人が懇意にしていた一家の相続税の申告書を見せてもらいました。
目を通してみると、まず広大地評価が適用されそうな農地があるにもかかわらず、全く検討されていないようでした。
広大地評価については、微妙な解釈や判断を迫られることもありますが、このケースでは広大地評価をとれることは誰の目にも明らかでした。しかも、その結果として数千万円も相続税が下がる可能性がありました。
さらに、驚いたのは、小規模宅地等の特例が間違って使われていたことです。
小規模宅地等の特例とは、一定の条件を満たした居住、事業用の宅地の評価額を減額する特例です。亡くなった被相続人の財産で、居住や事業に使われていた宅地は、相続人が引き続きそこで暮らしたり事業を行ったりする場合、重要な意味を持つことになります。小規模宅地等の特例は、そのような点に配慮して設けられている相続税の優遇措置なのです。
申告書では、この小規模宅地等の特例に基づいた処理がなされていたのですが、なんとその対象となっていた土地は農地だったのです。
そもそも農地の上には何も建てることができませんので、居住用はもちろん事業用の宅地として評価することなど不可能です。つまり、小規模宅地等の特例を適用する余地はありません。これは相続税を扱う税理士であれば、当然、知っておかなければならない知識であり、およそありえないようなミスです。
結局、その申告書については、広大地評価等を含めて、私が修正したうえで、更生の請求を行いました。
ちなみに、この税理士は、とある地域の税務署長を務めた後で、税理士になった人でした。依頼した相続人からすれば、元税務署長なのだから、相続税について知らないはずがないと思っていたのかもしれませんが、そんなことはありません。
税務署でも、それぞれ専門があります。その人の経歴をみると、もっぱら法人ばかりを担当してきたようでした。相続とは全く関係がありません。
そもそも、相続税を納めている人は相続が発生した人のうちの4%程度です。つまり、相続税の案件そのものが、税務全体の中ではごくわずかな数しかないのです。そのため、一生の中で一度も相続税の案件を扱ったことがないという税理士も少なくありません。
そのような税理士が、「今までにやったことはないが、チャレンジしてみるか」と相続税の申告を手がけてみても、どのような結果になるのかは、はなから想像がつきます。
相続税は金額が大きいだけに、ミスをすれば、評価額も億単位で変わってくることが珍しくありません。前述した広大地評価の見落としなどはその最たる例といえます。評価額が億単位で変わるということは納税額が1000万単位で変わってくるということを意味します。