法人税の引き下げにより法人化のメリットはますます大きくなる
法人化によって、個人事業主1人に集中していた所得を法人役員全員に分散させることができるというメリットがあります。その結果、納める税金の大部分を、それまで個人として支払っていた所得税と比べて、税負担を大幅に軽減することが可能となります。
それらの節税効果によって、賃貸経営を個人事業で行っている場合と法人化している場合とでは、場合によっては税額で年間数百万円ほどの差がでてくるのです。
その程度かと思う人もいるかもしれませんが、10年間で数千万円も変わってくるのです。相当に大きな額ではないでしょうか。不動産事業の所得がおおむね2000万円を超えているのであれば、法人化しない手はありません。
現在、所得税と法人税は、すでに税率で開きがありますが、今後、所得税の税率は引き上げられ、他方、法人税については、現状よりも引き下げられることが予想されています。そうなれば、法人化のメリットがさらに大きくなることは間違いありません。
また、個人時代とは違い、給与所得控除という新たな経費が生まれることにより、法人の所得を圧縮できる効果があります。
まず建物を売却し、相続時に土地を売る
法人化による節税は、2段階で行われることになります。
土地を有効活用している場合、通常、収益の柱となっているのはその上にあるアパートなり、店舗なりの建物のはずです。土地が利益を生んでいるというよりは、建物がいわば金のなる木となっています。
そこで、法人を設立した後、まず、この建物を法人に売却することで、前述のような所得分散と税負担の軽減を図ります。
次に、相続が発生したときに、たとえば「相続税を◯億円払わなければならない」という状況になったら、今度は◯億円に見合う土地を法人に売ります。
その売却益で相続税を支払うわけです。
法人が土地を購入するための資金は、金融機関等からの融資によってまかなうことになるでしょうが、その支払利息は、法人が事業用資産を購入するための費用となることから、経費として落とすことが可能となります。
ちなみに、個人が相続税の支払いにあてるため同額の資金を金融機関から借りた場合、その利息は相続財産の管理費用にすぎないので経費にはなりません。
また、法人化することで、個人では限度額がある生命保険金の非課税枠についても節税をより効果的に行うことが可能となります。
すなわち、製麺保険金を個人でかけた場合には、所得控除できる金額には上限がありますが、一定のルールに則り法人名義で加入した場合には、全額経費にすることが可能となります。
なお、この法人名義で加入した保険金については、被保険者が死亡したときには死亡退職金として遺族に支払われることになります。死亡退職金は、生命保険金と同様に「500万円x法定相続人の数」までが非課税となります。
株式会社化する場合、株式については要注意
法人化の手法については、そのコストが気にかかる人がいるかもしれませんが、法人を設立するための費用は思うほどかかりません。
かつては、設立時に、有限会社で300万円、株式会社で1000万円をそれぞれ最低資本金として用意しなければなりませんでしたが、平成18年の会社法改正でこのような資本金のしばりはなくなりました。
現在は資本金が1円からでも法人を作ることが可能です。
したがって、必要となるコストは登記費用や司法書士の報酬などで、30万円程度あれば十分です。
また、株式会社を設立する場合、株式は、将来後継ぎとなる子どもに100%持たせてしまうことが理想的です。
というのは、不動産事業が順調であれば、株式の資産価値はどんどん上がっていくはずです。10年で10倍以上になることも珍しくありません。
そのような資産価値の高い株式を被相続人が持っていても、いたずらに相続税が増えるだけです。それならば、最初から子どもに100%持たせておく方が、生前からスムーズに資産も移転しておくという観点からも合理的です。
もっとも、中には、子どもに株式を100%所有させて、法人の経営権を握らせてしまうことに躊躇するようなケースもあるでしょう。
たとえば、「息子に全部渡してしまうと何をしでかすかわからない」「株式を全部渡したら、先祖代々守ってきた土地をすべて売られてしまうかもしれない」などという不安を抱かせるような息子さんあるいは娘さんをお持ちの方もいるかもしれません。
そのような場合には、株式の51%以上を親が持ち続けることも一つの選択肢となります。株式の過半数を握っていれば、経営権を握り続けることができるので、少なくとも自分の生きている間は、子どもが法人を好き勝手に動かして”暴走”するような事態は避けられるでしょう。
相続前の債権放棄も検討したい
法人が設立済みの場合、通常、被相続人は役員として法人に対して貸付金を有していることが多いでしょう(ことに法人が恒常的に赤字状態の場合)。その貸付金を、被相続人の存命中に債権放棄しておくのです。
もし貸付金をそのままにしておけば、被相続人の死後、相続財産を構成し、課税対象となります。
たとえば、法人に対して1億円の貸付金があれば、それに対しても相続税がかかってくることになるわけです。
法人の赤字が続いているような状態の場合、貸付金は返済される可能性が低いでしょうから、ほとんど無価値です。にもかかわらず、そのような価値のない債権を価値のあるものと評価され、相続税を支払う羽目になるのはばかげています。
あらかじめ債権放棄をしておき、余計な相続税の負担を負わせないようにしておくことが合理的なのは明らかです。
放棄する債権の額にもよりますが、驚くほど相続税の額が変わることがあります。
法人化再生プランによってバブル期の後遺症対策をする
バブル期にマンションを建てた土地オーナーの中には、金融機関からの借入金の返済が思うようにいかず、にっちもさっちもいかない状態に陥っている人が少なくありません。法人化は、このようなケースにおいて、借入金を効果的に返済し、再生を図る手段としても活用することができます。
まず、マンションについては、鑑定評価を受けたうえで代金を定めて、法人に売却します。マンションの時価は帳簿価格より低くなっているケースが多いので、法人に売却した結果として売却損が生じることになります。
また、利用していない遊休地、たとえば耕作していない農地などがあれば、生産緑地を解除するなどして売却します。この場合、土地については売却益が生じます。そして、譲渡所得税も生じます。
そこで、建物を売って生じたマイナス(売却損)と、土地を売ったプラス(売却益)とをぶつけます。つまり、相殺するわけです。
こうして得たプラス分で、借入金をある程度返済して、残額を法人に引き継がせることにより、賽銭の道筋を作っていくわけです。
このように、「法人化」は、相続対策にとどまらず、多用な活用方法が考えられます。ぜひ、前向きに検討してみてください。