身内に財産を残したければ「養子縁組」

税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 養子縁組、すなわち養子をとることも古くから行われてきた相続税対策の方法の一つです。

 養子縁組によって子どもとなった者を「養子」、養子の親となった者を「要親」といいます。「養子」は、法律上、嫡出子と全く同じ扱いになります。

 相続税の基礎控除額は、法定相続人の数が多ければ多いほど増えます。養子縁組の結果、法定相続人である「子」が増えるので、「基礎控除額が増える=相続税が減る」ことになるというわけです。

 もっとも、法定相続人の数に加えることのできる養子の人数は、実子がいるときは1人まで、実子がいないときは2人までと制限されています。

 したがって、節税方法としては限界があることは否めません。

 ただし、養子縁組には、もう一つ別の相続対策を目的とした効果が期待できます。それは、「遺留分対策」の効果です。

 まず、子どもが相続人となる場合、その遺留分は子どもの人数が多ければ多いほど少なくなります。

 たとえば、相続人が子ども2人だけの場合には、それぞれの遺留分は4分の1となります。それが、子どもが3人あるいは4人の場合には、それぞれ6分の1、8分の1となります。

 したがって、養子が増えれば増えるだけ、子ども1人あたりの遺留分は減ることになります。その結果、遺留分を主張する相続人に渡さなければならない相続財産の額を減らすことが可能となるわけです。

 つまり、養子縁組は、相続人によって遺留分が主張された結果、本家の財産が大きく現象することを防止する手段として利用できるわけです。

 このような養子縁組の機能に着目して、私は、確実に相続争いでもめることが予想されるような場合、本家のお孫さんたちをみな養子にするようにアドバイスしています(念のため付け加えておくと、養子となった者に財産を相続させる必要はありません。養子縁組の目的は、あくまでも、遺留分を主張する者に渡す財産を減らすことにあるのです)。

図表 3-2

養子が実子ともめるリスクには要注意

 相続対策として養子縁組を行う場合には、養子が実子ともめる可能性があることも想定しておく必要があるでしょう。

 たとえば、Aが自分の子どもBの子ども(Aからすれば孫)であるCを養子にした場合、BとCはともにAの子どもになって、同一順位でAの相続財産を相続することになります。このようなケースで、BがCの母親であるような場合、Cに全ての財産を相続させてしまうことがあります(図表3−3)。

図表 3-3

 しかし、これは非常に危険です。

 私の見聞した例では、このようなパターンで、全ての財産を相続した息子が母親と仲たがいした挙げ句、母親を無理やり、家から追い出してしまったというケースがありました。その母親は、長年生活してきた1000坪ほどの屋敷を離れ、今ではアパートで1人寂しく暮らしています。

 何ともひどい話ですが、母親がわずかなりとも自宅の不動産について持ち分を持っていればこのような事態は避けられたはずでした。

 親心から、「自分は老い先短いし、子どもに財産を全部渡してしまおう」などとつい思ってしまう気持ちもわかりますが、たとえ親子の間であっても何が起こるかわかりません。万が一を考えて、せめてわずかでもいいから自分に持ち分を残しておくことをお勧めします。

養子縁組の手続きは簡単

 養子縁組の手続きそのものは非常に簡単です。基本的には、養親となる者と養子となる者が合意をして市町村役場で戸籍の届け出をすればよいだけです。
 ただし、15歳未満の者を養子とする場合には、養親となる者の合意ではなく、その法定代理人が、その者に代わって縁組の承諾をすることが必要となります。

 法定代理人は、通常は親権者、つまり親のはずです。したがって、15歳未満の孫を養子にする場合には、その親の承諾が必要となります。

 また、養親となる者に配偶者がいる場合には、その同意も必要となります。

 養子縁組届は、養親もしくは養子の本籍地または届出人の住所地、所在地のいずれかの市区町村役場に提出します。

 なお、養子縁組には特別養子縁組という特別のタイプがあります。この特別養子縁組を行う場合には、より煩雑な手続きが必要となりますが、これは純粋に子どもの福祉を図った制度であり、相続対策として利用することはないでしょう。