1.導入の背景

税理士 宮崎純子
税理士 宮崎純子

 現在、国の行政機関や地方自治体等が「同一人物の個人情報」を迅速かつ正確に確認するための基盤が存在せず、情報連携が不足していることから、様々な弊害が生じています。例えば、行政手続の際に多くの添付書類が必要であること、不正受給や不正還付問題、行政運営の非効率等が挙げられます。このような状況を踏まえ、「国民の給付と負担の公平性の確保」「行政運営の効率化と国民の利便性の向上」を目的として導入されたのがマイナンバー制度です。

 国税庁で把握している給与支払事務所(法人)は、全国で約250万社であり、一方厚生労働省のデータによると加入事業所は約180万社であるため、全国で約70万社の差が生じているといわれています。また、年間給与額は、国税庁データは200兆円、厚生労働省データは149兆円、差額が51兆円にものぼるといわれています。これらの差が生じている原因の一つとして、社会保険の未加入問題があり、マイナンバーの導入によって不正未加入の抑制に大きく役立つこととなります。

 政府は、この51兆円の給与差額に係る社会保険料の回収を見込んでおり、給与に係る社会保険料が約3割、このうち不正未加入が5割あると仮定すると7.5兆円の歳入拡大につながるという試算になります。既に平成27年度の厚生労働省予算では、厚生年金保険の適用促進対策として101億円の予算が計上されており、今後、社会保険の調査が厳しくなることが予想されます。

2.マイナンバー制度によって出来ること

① 所得把握の精度の向上

 従来、住所・氏名により所得情報を収集していたため、転居、結婚等による変更を把握しきれず、正確な情報集約が困難な場合がありました。マイナンバー制度によって所得情報を効率的に把握出来ることから、所得の過少申告や不正還付等の抑止力が大きく向上します。また、生活保護の受給者の収入に関する情報の把握が容易になりますので、不正受給の抑制についてかなりの効果が期待されます。

② 行政事務の効率化による国民の負担軽減

 社会保障の給付を受ける場合、市役所・税務署・会社から住民票・所得証明書・納税証明書・源泉徴収票等を取得し、申請書に添付する必要がありました。マイナンバー制度によって、これらの書類が不要となり、添付書類の入手に係るコスト及び時間の削減となります。また、行政機関側での事務コスト及び事務時間の削減にもなります。

③ 国民の利便性の向上

 平成29年1月以降「マイナ・ポータル」というインターネットサービスが開始される予定です。「マイナ・ポータル」では、自分の特定個人情報が、いつ、どの行政機関からどの行政機関に、何の目的で提供されたのか確認することが出来ます。

 また、転居等の際に「マイナ・ポータル」から自治体に転入届等を提出すると、健康保険や年金等の複数の変更手続きが自動的に一括処理出来るなど、事務手続きが簡素化される予定です。確定申告の際には、自己の収入や社会保険料、医療費等の金額を確認することが出来るため添付書類を省略出来る等、利便性が向上します。

3.マイナンバーの利用範囲拡大

 現行法令ではマイナンバーは「税・社会保障・災害対策」にその利用が限定されていますが、今後は、① 預金口座へのマイナンバーの付番 ② 医療分野における利用範囲の拡充 ③ 地方公共団体の要望を踏まえた利用範囲の拡充(公営住宅・雇用・障害者福祉)等、マイナンバーによる情報連携により更なる効率化・利便性の向上のため、利用範囲の拡大が検討されています。

 以上からもお分かりのとおり、導入当初はマイナンバーを付番される国民の利便性よりも、国及び地方公共団体等の徴収業務への寄与の方が大きいと推測されます。国民の利便性の向上をみるまでは、まだまだ時間がかかりそうです。