書店、ネット上でもおなじみのネタではありますが、今ひとつ分かりにくいので、個人事業主が法人化するメリットについて、まとめてみました。
1.法人化は課税所得1,000万円越えで判断すべき
個人事業主が法人化を判断する目安は、課税所得(売上△経費等)で判断します。具体例でお話ししましょう。ちまたでは、法人化を検討するとき、個人・法人の税率の比較や、中小法人の800万円以下の優遇税率を用いていますが、私はズバリ、課税所得が1,000万円を超えるかどうかを判断基準としてお話ししています。
上記の表でもお分かりのとおり、単純に課税所得で比べただけでも、1,000万円の課税所得で、30万円の差が出ます。2,000万円で比較すると、110万円法人の方が有利になります。
どうしてこのような結果が生じるかといえば、( )内で表している実効税率の差によるものです。
また、個人事業主が法人化をした場合には、個人では出すことのできない、自らに対する役員報酬が出せるので、上記より個人・法人の概算税額の差額はさらに広がります。役員報酬についての節税のカラクリは、後述します。
法人の代表者に対し、役員報酬を500万円支出した場合には、1,000万円の課税所得(実際は500万円となる。)で141万円の差が、2,000万円(同1,500万円)では、268万円もの差額が生ずることとなります。大したことないじゃないと思われる方は、10年間で計算してみて下さい。1,410万円、2,680万円と差額が生ずれば、法人化のメリットがご理解になれるはずです。
2.法人化は社会的信用性で判断すべき
良く、「法人化しなければ、お宅とは取引しないよ」という話を耳にすると思います。これは、法人の方が個人事業に比べて社会的信用力が高いことを意味しています。前述したように、課税所得が大きくなればなるほど、税金面で法人化が有利になります。税金面で法人化が有利であれば、当然法人化をしますので、一般的に法人の方が個人事業と比べて、事業規模も大きく、社会的信用性が高いと判断されます。
また、銀行融資においても、法人の方が有利です。その理由は、法人の方が個人事業主に比べて、法人と経営者である個人が明確に区分されているので、事業そのものの経営状況や、財政状況が把握しやすいからです。個人事業者として創業し、事業が軌道に乗り、金融機関から設備資金等を借り入れる場合には、併せて法人化を検討しましょう。
さらにいえば、法人であれば社会保険に加入することができるので、将来構想をきちんと持っている人材を募集する上で有利といえます。もちろん代表者自身も、社会保険への加入が可能となりますので、将来的に個人事業主として頂く国民年金より、法人化して社会保険に加入して頂く年金の方が多くなります。
3.法人化は節税の視点から判断すべき
①「所得分散」と「給与所得控除」による節税
節税の視点の最たるものは、「所得分散」と法人化の隠れた主役である「給与所得控除」です。これは、個人事業であれば、1人に所得が集中しますが、法人化すれば、「所得分散」が可能です。1人よりも2人、2人よりは3人に分散できれば、より節税が図られ、使えるお金(可処分所得)が増えることとなります。
また、個人事業者は自分に給与を出しても経費にはなりません。しかしながら、法人化することにより、役員報酬として自分に対しても給与の支払いが可能となり、もちろん法人の経費となります。
前述した「給与所得控除」とは、いわゆる「サラリーマンの必要経費」として給与の額面額から差し引いてくれる経費であり、金銭の支出を伴わないことから、「エアーギター」ならぬ「エアー経費」としてセミナーではお話をしています。1でお話しした法人化自体の実効税率のメリットはもちろんですが、「所得分散」と「給与所得控除」とをバランス良く使うことが、法人化の最大のメリットです。
②「青色事業専従者給与」より問題になりにくい「役員報酬」
笑い話の様な話なのですが、個人事業者が奥様などに支払う「青色事業専従者給与」よりは「役員報酬」の方が、税務調査で問題になるケースが少ないです。きちんと仕事に従事していることが大前提ですが、先日の税務調査でもこんなやりとりがありました。
調査官(以下:調):「奥様はどんな仕事をされているのですか?」
個人事業者(以下:個):「これこれです。」
調:「では、その仕事を他人に頼むとしたらいくら払いますか?」
個:「いくらいくら(奥様に支払っているより安い金額)ですね。」
調:「では、奥様に支払っている金額との差額は不当に高額な給与なので、経費に算入できません。」
逆に法人の場合には、このような重箱の隅を突くような指摘はされません。この指摘については、もちろん押し戻しました。
③「生命保険契約」を活用した節税
次に生命保険契約についてお話をしたいと思います。富裕層にありがちの話なのですが、知人や友人から生命保険会社を紹介され、保障内容を良く吟味しないで過剰なほど生命保険に加入している方を見かけます。しかしながら、過剰に保険契約を結んでも、所得税の計算上、年間控除できる生命保険料控除の最高限度額は12万円です。これに対し法人で適法な要件に則った生命保険に加入すれば、経費にできる支払保険料の制限はありません。もっとも不要な保険に加入する必要はありませんので、個人と法人で適切に必要な保障額を吟味して生命保険契約を結ぶようにして下さい。
生命保険契約をお話しする上では、法人での契約と法人代表者が個人で契約する生命保険契約のバランスに注意して下さい。法人での生命保険契約は、代表者に万が一のことがあった場合に、その死亡日現在抱えている借入金の返済原資や、一定期間の運転資金などを鑑みて必要保障額を算定します。併せて、代表者個人の家族が生活に困らないように、法人での生命保険契約を原資として、代表者家族に死亡退職金を支払うこともあります。
死亡保険金は、個人事業者であれば、自分に対して給与を出しても経費にならないのと同じく、自分に対して死亡退職金を支払っても、経費とすることはできません。しかしながら、法人であれば、代表者家族に死亡退職金を支払うことも可能であり、もちろん経費となります。
④相続税法上の優遇措置による節税
死亡退職金については、相続税法上の優遇措置も忘れてはいけません。相続人が死亡退職金を受け取った場合には、「退職金の非課税金額」の限度額までは、相続税は課税されません。「退職金の非課税金額」の限度額は、「500万円×法定相続人の数」です。そういった理由から、法人化する際には、最低でも「500万円×法定相続人の数」分の生命保険契約に加入することをお勧めしています。たとえば、法定相続人が3人の場合には、1,500万円までの死亡退職金は相続税が課税されませんから、相続税の支払いや、残された家族の生活費に充てることができます。
個人で加入している生命保険契約にかかる死亡保険金にも、相続税法上の優遇措置があります。「退職金の非課税金額」と同じく、「生命保険金の非課税金額」といい、限度額計算も、「500万円×法定相続人の数」と同じです。たとえば、法定相続人が3人の場合には個人でも1,500万円までの生命保険契約に加入すれば、全額課税されませんので、残された家族には、死亡退職金と合わせて、3,000万円の課税されないキャッシュが遺されることとなります。
⑤消費税の繰り延べによる節税
個人事業主として創業した場合、開業年度の消費税が課税される売上げが、1,000万円を越えると、その2年後(3年目)から消費税を納める義務が生じます。また、法人として創業した場合も、個人として創業するのと同様に、3事業年度目から消費税の納税義務者となります。そこで、最初は個人として創業し、3年目に法人化することにより、消費税の課税をさらに2年間繰り延べることが可能となります。