税理士 土田士朗
税理士 土田士朗
 相続税対策の道筋を決めたら、必ず遺言書を作成しましょう。遺言書の作成目的は、相続人間の争いごとを未然に防止することです。相続税対策に取り組み、財産の分割対策、節税対策、納税対策をした上で、遺言書を作成しておけば、相続発生後、相続人間で話し合いをして、「遺産分割協議書」という「和解書」のようなものを作成する必要がありません。昨今の相続争いを目の当たりにすると、遺言書の作成は、遺言を遺す方の義務とも言えます。

 相続税対策の道筋を決めても、相続人達には折に触れ、言い含めているからと言って、遺言書を作りたがらない方もいらっしゃいます。そういう方には、遺言書の作成は、「保険」です、と言って説得しています。遺言書は揉めたときに初めて効力を発揮するもので、揉めなければ、日の目を見なくても良いものです。相続人間で、相続の話が出るのは、だいたい49日頃です。法要で相続人が集合したとき、家の後を継いだ相続人が、他の相続人に対し、「財産分けについて何か考えていることあるか?」という問いかけに対し、他の相続人が、その跡継ぎに対し、「兄貴は一所懸命家のことやってるんだから任せるよ。」と言うようなら、作成済みの遺言書を表に出す必要はありません。逆に、「兄貴の良いようにはさせないよ。俺たちにも権利がある。」と言うようであれば、「ここに親父の遺言がある。」といって、遺言書を披露すればいいのです。遺言書は、文字通り「保険」のような役割も果たします。

 では、遺言書を作成する際の注意点は何でしょう。結論をはじめにお話しすると、遺言書は「公正証書遺言」で作成すべきです。遺言書には①自分で作成する「自筆証書遺言」、②公証人は関与するが、公証人は内容までは確認しないので、内容の不備からトラブルが生じる可能性がある「秘密証書遺言」、③お勧めの「公正証書遺言」の3つがあります。慣行から、②の「秘密証書遺言」を作成する方はいないので、説明は割愛します。

 遺言書を「公正証書遺言」で作成する場合と「自筆証書遺言」で作成する場合とを比較してみましょう。

1.「公正証書遺言」で作成する場合

 公正証書遺言は、公証人が、遺言を遺す方と、事前に綿密な打ち合わせをし、最終的には公証人が作成するので、内容が明確で、証拠能力が高く、安全・確実です。また、作成した遺言書原本を、公証人役場で保管するため、偽造・変造・隠匿の可能性はありません。公正証書遺言は、2人以上の証人の立ち会いの下で、遺言者が遺言の趣旨を口述し、公証人が筆記する方式のため、字が書けない方でも作成することができます。以上のことからも、いざ相続が発生した場合には、その遺言書が本物かどうかの、裁判所の検認を受ける必要がありません。

 また、相続が発生した場合には、公正証書遺言により、すぐに不動産登記が可能です。何もそんなに急いで登記しなくても、と思われる方もいらっしゃると思います。しかしながら、自宅以外にも賃貸用不動産を相続する場合などは、遺言書がない場合には、相続発生時から相続人間で分割が確定した時までの収入・経費は、各相続人に法定相続分で帰属することとなります。故に相続発生後、遅滞なく公正証書遺言による登記をすることにより、スムーズな財産移転と、正当な財産の承継者による適正な申告が可能となります。

2.「自筆証書遺言」で作成する場合

 自筆証書遺言は、文字通り自分で作成する遺言書なので、遺言者が、遺言書の全文・日付(作成年月日)・氏名を自署して押印する必要があります。間違いたくないからといって、ワープロで作成したり、ビデオ撮影や音声を録音したものは、遺言書とは認められません。さらに、日付や氏名、押印のどれかが抜けていても、その遺言書は無効となってしまいます。本文についても、その遺言の内容が、「誰に」「どの財産を」「どれだけ」相続させるのか、誰を、遺言執行者に指定するのかを明確にしていないと、同様に無効となります。

 自筆証書遺言は、公正証書遺言と違い、詐欺・脅迫の可能性、紛失・偽造・変造・隠匿の危険性があります。そして、自筆証書遺言の最大の弱点は、遺言書が本物かどうか、家庭裁判所の「検認」を受ける必要があることです。「検認」の目的は、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです。また、自筆証書遺言が封印されている場合には、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立ち会いがなければ、開封できません。(実際には、家庭裁判所からの立ち会いの通知で足り、立ち会いなしで開封はできますが、検認手続きの前に遺言書を開封しないよう注意が必要です。)「検認」には、当然時間もかかります。また、家庭裁判所の「検認」を怠り、遺言を執行してしまった場合や、封印されている遺言書を家庭裁判所外において開封した場合には、5万円以下の過料に処されます。

 以上が、遺言書は公正証書遺言で作成することをお勧めする理由です。そうは言っても、公正証書遺言を作成するには、多額のお金が掛かるでしょう、という質問を良く受けます。ざっくりですが、課税価格10億円の公正証書遺言書作成料は、30万円強となります。ちなみに課税価格が10億円を超える申告をする被相続人は、日本中で年間1,000人おりません。公正証書遺言の作成料を高いと思うか、安いと思うかは、遺言を遺す方の価値観だと思いますが、私は強く公正証書遺言の作成をお勧めします。
  
 私が「公正証書遺言」の作成をお手伝いするときに、遺言書に「附言事項」を加えることをお勧めしています。「附言事項」とは、遺言を遺す方がどのような思いで遺言書の内容を決めたのかを書くことです。法的な効果はありませんが、相続人へ自分の思いを伝える最後のお手紙だと説明しています。遺産の分け方の理由、家族への感謝の気持ち、遺言者亡き後家族が仲良く暮らしてほしいなどの気持ちをしたためることによって、残された相続人の争いを防ぐ効果もあります。是非ご活用下さい。